花魁ザンザス×禿ツナ ◆ケイ様
出逢ひ
「今日は泊まっていけるのか」
相変わらず上から目線で『もちろん泊まるよな』と視線で脅してくるザンザスを見つめながら、綱吉は初めてこの店を訪れた時の事を思い出していた。
半年程前の事、新人達の歓迎を兼ねた飲み会で、あまり酒に強く無い綱吉は早めに切り上げるつもりでいた。
毎年そうしているので同僚も引き留める事なく、一次会終了と共に帰路につこうとした綱吉を誰かが不意に呼び止める声がした。
声に振り返れば、綱吉直属の上司である六道骸の姿が。
掴みどころの無いこの上司が苦手な綱吉は、しかし無視する事もできず恐る恐る「何でしょうか」と呟いた。
すると六道はにっこり笑いながら、抜けるのなら一緒に抜けませんかと話しかけてきた。
イイところがあるんです。
ニコニコ笑いながら、有無を言わさず。
上司に逆らう事も出来ず口をパクパクと開くだけの綱吉を六道は『オススメだ』という店に連れてきた。
引き摺られている途中で花街に向かっているのだと気づいた綱吉は慌てた。
話はよく聞くがそんなところ行った事がない。
というか行く勇気がない。
ダメです。
帰りましょう。
としきりに涙目で言う綱吉をよそに、引き摺ったまま六道はその場で一番豪華そうな店に入っていった。
半ば(いや、完全に)強引に連れてこられた綱吉は泣きそうになっていた。
もしかしたら少し涙は出ていたかもしれない。
どうやら常連らしい六道は店に入るなり、「いつもの部屋で、彼女を」と告げると案内を待たずに綱吉を連れ部屋に入った。
そして手慣れた様子で酒やらを注文する。
その間も綱吉は襟首を掴まれ逃げる事が出来ないでいた。
綱吉が解放されたのは酒が来てからだった。
「彼女は忙しい人でね。来るのにもうしばらくかかるそうです。」
それまで飲みましょうか。
言いながら猪口を渡され、やはり断れない綱吉はあれよあれよという間に許容量以上の酒を飲まされていた。
アルコールにより段々視界が怪しくなってきたところで誰かが近づく気配がする。
フラフラになりながら、綱吉は体をそちらに傾けた。
「大丈夫ですか?綱吉くん」
崩れ落ちそうになった体を支えられ聞こえてきた声に、そうだ六道と来たのだと思い出す。
「少し飲ませすぎたようですね。」
声と共にふわりと体が宙に浮くのを感じた。
今ここで目を覚まさないと大変な事になる、と直感が告げているのだが慣れない量のアルコールのせいで体が全く動かない。
「少し休みましょう」
そう言って六道が隣室へと続く襖に手を掛けた瞬間、部屋がざわつくのを綱吉は感じた。
『…い!………ろ!』
『な……、綱…くんは……が!』
六道が誰かと言い争いをしている。
そこで綱吉の意識はふつり、と切れた。
気がつくと触り心地の良い布団に寝かされていた。
寝ぼけ眼で周りを見渡し、まだ店にいるのだと気づく。
ゆっくりと体を起こしたところで、部屋の端からコツンという音が聞こえた。
なんだろう
未だ覚醒しきってない意識のまま音のした方を見る。
すると、窓枠に豪奢な紅い着物を着た女性が腰掛けているのが見えた。
指に挟まれた煙管に、先ほどの音はこれを打ちつけた音なのだと気付く。
それと同時に、綱吉の気配に気づいたらしい女性が煙管を口にくわえながら振り向いた。
艶やかな黒髪に白い肌。着物と同じ、それ以上に紅い瞳。こめかみと額に傷跡が走っていたが、それすら彼女の美しさをひきたたせる要因となっている。
その貌に綱吉は思わず見入っていた。
どれくらい見ていただろうか。
同じように綱吉を見つめていた彼女が徐に立ち上がり持っていた煙管を窓枠にコツンと叩きつけ灰を外へと放った。
(その時なにやら「あつっ、熱いですよ!」と聞き覚えのある声が聞こえたが気のせいだろう。たぶん)
そして、布団の傍へと近寄ってくる。
優雅な動作で布団の横に腰掛けた彼女は声も出さず見惚れたままの綱吉の顎に手をかけ、そのままゆっくりと綱吉の口唇を己のそれで塞いだ。
チュッと音を彼女が立てて離れる。
アルコールに侵された脳が逆に冷静にさせてくれた。
離れていく紅をひいた唇を見つめながらほうっと息を吐く。
すると離れた筈の唇で再び吐いた息ごと噛みつくように塞がれた。
「……っん、…はっ、ぁ」
喰われるような錯覚を起こす程口唇を貪られる。
採りすぎたアルコールも相俟って息も出来ない程の口付けに再び気を失いかけた綱吉の耳に、彼女の声が響いた。
「あんな変態についてくるからこんな事になるんだ。……だが、気に入った。俺のものになれ」
そんな無茶な、と思いながらも、言葉の悪さとは裏腹に優しく髪を梳く手に身を任せながら綱吉は再び意識を手放した。
考えたらすごい出会いだよな。
|