花魁ザンザス×禿ツナ ◆ケイ様
ヲキニイリ
さてどうしたものか。
己が今置かれている状況に綱吉は頭を捻った。
その日、久しぶりにザンザスを訪ねた綱吉は部屋に入るなり上機嫌な彼女に迎えられた。
前訪れた時より日が空いていた為また怒られると思っていた綱吉は少し拍子抜けした。
いや、これなかったのも仕事が忙しかったからで、怒られる筋合いは無いのだが。
しかし、あまりの上機嫌振りに綱吉は言い知れぬ不安を感じていた。
なんだか嫌な予感がする。
だが、珍しく笑顔の彼女に言い出せるはずもなく、促されるままに隣室への襖を開いていた。
まず目に飛び込んできたのはいつもの布団。
紅い掛け布団はどうなのかと常に思うが、実際そういう店だし、なによりザンザスに一番似合う色なので何も言えない。
そこでいつも行われる行為を思い出した綱吉は真っ赤になりながら、そっと布団から目をそらした。
そして次に視界に映ったもの。
畳敷きの純和風の部屋には不似合いな西洋風の椅子。
綱吉がよく見かけるような一般的なそれでなく、骨董品調の黒いその椅子を見ていると不意にその高い背もたれに細く長い指がかけられた。
いつの間に移動したのだろうか、ザンザスが嬉しそうに緩やかな曲線をその指でな
たったそれだけなのに、情事を思わせる指の動きに似ていて、綱吉は真っ赤になって目を逸らした。
「いいだろう」
耳に入ってきた艶を含む声に顔を向ける。
なぞる事に飽きたのか、椅子にしなだれかかりながら艶やかに微笑むザンザスに、つい魅入ってしまった。
確かに部屋には不似合いだが、自然と彼女には似合っていた。
どうやら彼女の上機嫌は、取り寄せさせたらしいその椅子のおかげらしい。
尚も嬉しそうに頬までよせるザンザスに綱吉もつい頬がゆるむ。
こういうとこが可愛いんだよな。
普段との差がまた、などと思っていると突然手を取られ引っ張られた。
もともと力でさえ彼女に勝てない綱吉は、簡単にザンザスに抱き込まれる。
そして抵抗する間もない程素早く、自慢していた椅子に座らされていた。
堅くもなく柔らかくもない丁度良い感触に思わず感嘆の息が漏れる。
ついそのまま背中を預けてしまった瞬間、膝に心地よい感触とちょっとした重みが降りてきた。
何事かと思えば、やはりザンザスで。
逃げ場を封じられたと自覚した綱吉は小さくため息をついた。
上機嫌に見えたザンザスも、実は怒っていたらしい。
口元に笑みを浮かべ顔を寄せるザンザスに、条件反射で目をつむる。
思った通り落とされた口づけに、軽く唇を開いた。
が、珍しく啄むだけで離れていく口唇に、目を見開く。
すると、してやったりという顔のザンザスと目が合った。
カアァ、と顔が赤く染まるのがわかる。
まるで貪られる事を期待していたかのような己の行動が恥ずかしい。
「足りねえか?」
ニヤリと笑う彼女に、真っ赤な顔を小さく縦に振った。
自分とて、会いたくなくて来なかったわけではない。
会いたくて会いたくて仕方なかった。
今日だって本当はまだ仕事のはずだったのを、我慢できず、明日頑張ろうと自分に言い聞かせてやってきたのだ。
「ザンザスさん……」
もっと……
勇気を出して、ザンザスを見上げて再び目を閉じる。
すると、ふっ、という笑いの後に柔らかい感触が降りてきた。
「んっ………、ふっ」
今度はすぐに貪られた。
喰われそうな程の口づけに息が上がる。
上手く息をつげず、酸欠手前になったところでようやく解放された。
目の前にあるザンザスの胸元に顔を預け呼吸を整える。
普段なら真っ赤になって離れる綱吉だが、今そんな余裕は無い。
むしろ、己が何にもたれているかも分かっていないだろう。
それを知りつつ、綱吉の息が粗方整いはじめたのを見計らい、ザンザスはその豊満な胸を更に彼に押し付けた。
そこでようやく、己の所業に気づいた綱吉が慌てるのを見てザンザスは声を上げて笑い出す。
「いつも直に触ってんのに、相変わらず面白い奴だな」
まあ、そこが好きなんだがな。
胸を押し付けながらポソリと囁かれた言葉に、綱吉の頬の朱は更に深くなった。
俺だって、貴女が好きです。
その言葉は三度落ちてきた彼女の口唇に吸い込まれていった。
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